もはや季節の風物詩というか、毎回の恒例行事になってしまいました、新しい仮面ライダーが発表になるたびに聞こえてくる「デザインがカッコ悪い問題」ですが。
それに対して、いつも言っていることを、あらためてまとめておきます。
◆ 仮面ライダーの「定義」と「記号」
「仮面ライダーじゃない!」
よく言われるこの意見は、仮面ライダーの「定義」を、どこに置くかによります。
「仮面ライダーとはこういうものだ!」というのは、人によって「定義」が異なるので、こういう否定的な意見が多くなるのは、仕方のないことだと思います。
もちろん作品には、肝であり根幹にある魅力やテーマがあって、それを継承することは大切なのですけれど。
それをただ繰り返していては、ダビングを繰り返したビデオテープの映像が、劣化コピーの果てにノイズまみれで原型を留めなくなってしまうように。無残な結果になってしまいます。
ビデオテープの例えって、まだ通じます?
シリーズ作品などで、長年続いているものに継承された「記号」の解釈と埋め込み、共通の記号を埋め込みつつ、まったく新しい血液を入れる。
「記号」を杭に、そこからロープを延ばして、張って、できるだけ遠くへ跳ぶ。
飛距離を出し、振り幅をもたせ、作品のボリュームをふくらませる。
それが一目で、その作品のシリーズだと認識してもらった上で、それでいて簡単に納得されない。
それでいて、どこかギョッとする部分、唯一無二のインパクトを載せる。
この両方が必要で、この両方をやらなくっちゃあならないってのが、制作者サイドの辛いところなわけですが。
『ガンダム

この難しさを理解すれば、もう少し注意深くなって、少なくとも脊髄反射の無意味な拒絶反応は起こさなくてよくなると思います。
いや、起こしてもいいんですけど、それはまんまと手のひらの上ですよ、と。
起こしてもいいんですけど、無邪気に盛り上がってもいいんですけど、それは一周回ってきてから、分かっててやりましょうよ、と。
◆ 初見で納得されてしまったら「失敗」
初見でスルッと通るような、誰もがカッコいいと思う、「見栄えのいいデザイン」を、文句を言う皆さんは欲するわけなんですけど。
でもそれって、すごく危険なんですよね。
理解したものは、解決されたものとして処理されてしまうから。
忘れられるのも早いんですよね。
つるつるした食器は、滑って落としやすいんです。
分かってしまえば、もう見る必要はないから。
納得されてしまったら解決してしまう、解決された問題は、片付けられてしまうから。
流れていってしまう、残らない。
石ノ森章太郎先生の元々のマスクデザインが、ドクロを模していたのは有名な話ですが。
「なんで?」という疑問を持ってもらうこと、いびつな凸凹が心に引っかかってくれること。
そうでないと、印象に残らない。
心の中で、いつまでもザラザラし、残り続ける。
それが後で、物語の"ここぞ"という場面で、シチュエーションや演出など他の要素と科学反応して、熱と光を放つ。
そうなることこそが重要なんですね。
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◆ 見た目が良いだけの道具や機械は、たいてい使いづらい
「ダサい」というのは、単に「違和感がある」「文脈がまだ理解できない」を、語彙が少なく、頭悪く、幼稚に言葉にしているだけに過ぎません。
だから、制作サイドからすれば、「ダサい」「カッコ悪い」の声が挙がるのは想定内で。
むしろ、そういう否定が一切ない方が不安なんですね。
皆さんは、カッコいいデザインや見た目に惹かれて買った道具や機械が、実際に使用してみたら思いのほか使いづらかったという経験はありますでしょうか?
私は、あります。文房具関連や調理器具で、よくやらかしました。
デザインだけで成立しているということは、これはつまり、人が使うことを想定していないということです。
逆に、使いやすい道具というのは、一見するとおかしなカタチをしていたりします。
触ったことのない人間には、違和感のある、不細工なカタチに見えます。
でも、使ってみると、驚くほど手に馴染む。しっくりくる。
実際に使用すると、そのカタチの理由が、デザインの文脈が、まさに手にとるように解る。
これが「良いデザイン」です。
棚の上に置かれて鑑賞するためのカタチではなく、人が使う現場を想定したモノ。
「仮面ライダー」のデザインとは、そういうものだと思います。
ただ陳列されている状態で、違和感があったり、意味が理解できなくて、カッコ悪く「ダサく」見えるのは当り前です。
重要なものが、まだ欠けているんですから。
◆ “完成”の場所
ただ飾っておくだけなら、見栄え重視の、カッコいいだけのデザインで問題ないと思います。
でもそれが、ストーリーに放り込まれた時に、演出や動き・キャラクター…等々と、かみ合ってくれるとは限りません。
設定画やイラストが、どれだけスタイリッシュでカッコ良くても、演出やドラマから浮いてしまったら意味が無いんです。
つまらない話とヘタレ演出とショボショボ戦闘で、せっかくの素材が調理で台無しにされるように、デザインが死んでることもあるので、ここはお互い様なのですが。それは一旦、置いておいて。
かみ合わず浮いてしまったら、それは「駄目なデザイン」なんです。
設定やコンセプト、ストーリーやキャラクター、動きや映像、ギミックがかみ合って、仮面ライダーのデザインは「完成」します。
ギョッとするようなデザインや一見不細工な造形が、ストーリーや展開・演出にハマり、かっこよく活躍したり、可愛く見えてドキッとさせられた瞬間のゾクゾクは、たまらないエクスタシーです。
新番組発表会のステージの上は、完成の場所ではありません。
あすこは、素材の一部を見せているだけです。
高級レストランのシェフが、調理前の厳選食材を、火を通す前に見せに来る場面がありますよね。
(私はそういう場所に、サッパリ馴染みがありませんけど)
あれです。
その食材は、そこではまだ「料理」になっていません。
火を通し、調理され、テーブルに運ばれ、お客が口に運んだ瞬間が最高になるように、料理人は照準を合わせています。
不満や言いたいこともあるかもしれませんが、お店に入って席についているアナタにできる行動は限られています。
少なくとも、そこで全てを判断して、無様に騒ぎたて、文句を垂れ流してでんぐり返るのは、周りのお客さんにも迷惑だし、野暮天もいいところです。
みっともないし、粋じゃあないと思いませんか?
◆ 三五十五の「太い眉毛」と「ひょっとこ口」
よく例えに出すのが、小林まこと先生の漫画『柔道部物語

主人公、三五十五の「太い眉毛」と「ひょっとこ口」のことです。
『ゴルゴ13』の「デューク東郷」のパロディのような、海苔を貼っ付けたような極太眉毛。
とてもインパクトがあります。
単行本の巻末紹介で、ヤングマガジンのほかの作品の主人公たちと並んでいても、とても目立ちます。
目に留まる、印象に残る、決して埋もれてしまうことはありません。
「ひょっとこ口」は、三五が最大限に集中した時に、無意識でやってしまうクセです。
「力が入ると顔がひきつって笑ったような表情になる」(これは他のキャラにあります)などの、なんとなく身の回りにありそうな親近感ある特徴。
……でありつつ、漫画的な「記号」として、読者がひと目で理解できます。
目立つ個性であり、印象に残り、キャラが起つ!
どちらも、初見はちょっと笑ってしまうんですよね。
最初の頃は、柔道初心者で弱いし、単に周りから浮いてしまうだけで、コメディタッチでギャグに使われて、そのアンバランスさが滑稽で可笑しい。面白い。
でも、話が進んで、主人公が実力をつけて強くなるにつれて、これがだんだん効いてくるんです。
記号の意味が変化し、最初に出した答えと違ってきます。
めちゃくちゃカッコ良く見えてくる!
『太い眉毛』は、「力強さと頼もしさ」に。
『ひょっとこ口』は、主人公に「本気のスイッチが入った」「火が着いた」という視覚的なサインに。
弱かった時は笑いのネタにしか見えなかったものが、物語が進んでキャラクターが成長していくに連れて、小林まこと先生の画力の上昇とも相まって、カチカチと歯車が噛み合っていって、かっこ良さのサインに転化してゆく。
そして迎えるクライマックス!最高の一瞬!!
最後の西野との試合の三五のアップは、身震いして、息をのむほどに、超絶カッコいいです!!!
そこに到達するまでの展開・構成・演出・リズム・絵、すべてがお見事。
漫画史に残る、最高のコマの一つだと断言できます。
こういう細かいキャラ付けが、主人公の三五だけではなく、サブキャラクターやライバルたちにもなされ、どのキャラクターもバリバリ起ちまくっています。
笑って泣いて熱くなる、テンポの良さと無駄のなさ、スピード感。
高校三年間を、全11巻のコンパクトさで描ききる手腕。
自信を持ってオススメできる、間違いない作品、まぎれもない名作です。
単行本が全巻2セットあるけど、Kindle版も買い揃えました。
元ネタにした漫画も描いたヨ。(※リンク先、成年コミック注意)
<『にくまん♡あんまん』収録「柔道同好会物語」>
「オレってグレートだぜぇえええっ」と叫んで眠れなくなったり。
鏡の前でポーズをとったり。河原を全力疾走したり。
中学の柔道の授業中、「ひょっとこ口」を、こっそり真似していたのは内緒です。
◆ だから私は
だから私は、デザインの是非は、初見や発表の段階ではインパクトの部分「他のキャラやデザインと並べた時、沈んでしまわないか?」くらいしか見ません。
その後「これを、どうカッコ良く魅せるんだろう?」と、放送を追っていくのが、自分の見方です。
もちろん、うまくいかないこともありますが。
最初は違和感とインパクトだけだったものが、話が進み、モチーフ・コンセプト・ストーリー、そしてキャラクターの意思が絡み合い、クライマックスを迎えた空間、その一瞬にハマる。
最高の瞬間から、逆算して創出された、無二のカタチ。
バラバラだったパーツが組み上がり、完成した瞬間に、違和感の正体を知る。
「なんでそんな?」という、初見の時に抱いた疑問の答えが出る。
謎が解ける、ハッとする、「これじゃない!」が「これしかない!」に裏返る。
「なるほど!」と膝を打ち、目からウロコが落ちる、その瞬間を待ちわびる。
こんな感じです。
『ONE PIECE

彼の、ずり落ちた眼鏡を上げなおす時のクセ、不自然に手の平全体で上げる仕草の違和感。
その理由が解った時の「なるほど!」。
小さくいうと、あの感じに近いのかもしれません。
そういう感動を与えてくれるデザイン、それこそが「最高のデザイン」なのだと私は考えています。
だから、新しいライダーが発表されて、そのデザインがどれだけ意表を突くものでも、問題ありません。
いや、むしろ突いてくれなければ!と思います。
あと、みんな忘れてるかもしれないけど、「仮面ライダー」ってそもそも「怪人」なんだよ。
◆ 納得の中間フォーム、ズレてしまう最強フォーム
ついでなので、パワーアップや強化形態についても、少し書きます。
パワーアップ形態の方向性には、疑問を感じるケースが多いですね。
せっかく頑張った新機軸デザインに、余計なものを足して、最初の記号がぼやけていることが多いような気がします。
ボヤけるというか、ブレるというか。
玩具の追加商品の関係とか、そういう事情は考えたくないのだけれど。
どうも後から外からゴテッと被せたり足したりして、主軸がズレるというか、重心が狂うというか、そんな感じがします。
いわゆる「足し算の悪影響」というやつですね。
漫画のネームなどでも、よくある現象です。
入れたい要素を盛るだけ盛ってから、規定枚数に収まるように削ぎ落としていく方法だと、テーマや主軸があまりブレないのですが。
逆に、ある程度カタチのできているところに、あとから付け足していく方法だと、最初のコンセプトからズレていってしまうことがよく起こります。
それと同じです。
理想をいえば、余分な要素を削ぎ落として、コンセプトの<核>の部分を「拡張」するようなバージョンアップがベストなイメージです。
その点でいうと、『ファイズ』→「アクセルフォーム」などの、いわゆる「中間フォーム」は、すんなり延ばした感じで、比較的まとまりが良いと思います。
『剣』の「ジャックフォーム」、『ギルス』の「エクシード」も良いですね。
「中間フォーム」は、残っていた「延びしろ内」でまとまるから、キレイなんですよね。
「最強フォーム」には、どこか「ピントのズレたインフレ」を感じてしまうのです。
「子ども向け」だから「見た目が強そう」にしなくてはいけないんです、みたいなエクスキューズは受け入れたくないのですけど。
そこで折れるなら、最初から新機軸だなんてトッポイこと言って、期待させるんじゃないよ!と。
<『SLAM DUNK (スラムダンク)』集英社/井上雄彦>
◆ パワーアップの理想
個人的に思うパワーアップの理想は、『DRAGON BALL (ドラゴンボール)

正確にいうと、パワーアップではなく、真の姿の開放ですけど。
(それから、サイボーグは除外の方向で)
状況に合わせ肉体を「構造変化」。
(フォームチェンジ)
安全のためにとっていたマージンを徐々に開放。
パワーを上げていき、バランスを取りつつ「統合」、それらに耐えられるよう肉体を「巨大化」。
(中間フォーム)
開放されてエネルギーが臨界点に達したところで、肉体を「スリム化」。
初期のシルエットを踏襲しつつ、よりシンプルに。
上がりきったエネルギーを効率よく出力し、本来のポテンシャルを最大限発揮する。
(最強フォーム)
というような。
理想は理想として、なかなかうまくいかないのかもしれませんが。
◆ さいごに
近年は、オールライダーなどのこともあり、ほかのライダーと並んだ時に埋もれてしまわないことも意識されているので、かなりバラエティに富んだ感じにはなっていますね。
ただ、玩具展開の都合やスケジュール、人を殺すなど描写の規制等々……冒険やチャレンジがしづらくなっている状況もありますが。
いろいろな問題や難しい部分があって、現場は大変だとは思いますが、また新たなヒーローを見せて、私達の度肝を抜いてほしいです。
ファンとして見守って、いつまでもワクワクし続けたいと思っています。
観客席から、ワイワイ言うだけなら簡単なんですけどね。ほんと。^^;
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